人材育成の原点をたどる、水戸での学び

当協会では、人材育成・リーダー育成を重要なテーマとして活動を行っています。

このたび、法人研修のご縁をきっかけに茨城県水戸市を訪れる機会があり、日本の教育思想とリーダーシップの源流に触れる学びの時間となりました。

水戸は、日本の近代化に大きな影響を与えた「水戸学」発祥の地であり、教育と政治、思想と実践を結びつけてきた歴史を持つ地域です。今回は、その象徴的存在である 弘道館 を中心に、水戸の歴史的背景を振り返ります。

教育によって国を興す、弘道館の思想と実践

弘道館は、1838年に創設された日本最大級の藩校です。「教育によって人心を安定させ、教育を基盤として国を興す」という理念のもと、文武両道を重視した総合的な教育機関として機能してきました。

弘道館の建学精神は「弘道館記」に示された5つの理念に集約されています。

神道と儒教を調和させる「神儒一致」、忠義と孝を結びつける「忠孝一致」、学問と武芸を両立させる「文武一致」、学問と実務を切り離さない「学問事業一致」、そして政治と教育を不可分とする「治教一致」。これらはいずれも、人格と社会の両面を育てる思想といえます。

敷地内には文館・武館・医学館・天文台に加え、神社や孔子廟も祀られ、藩士は15歳から40歳まで就学が義務づけられていました。卒業制度がなく、生涯にわたる学びを前提としていた点も特徴的です。

弘道館、学校の義

水戸学と『大日本史』が残した歴史的影響

弘道館の思想的源流にあるのが、水戸藩主 徳川光圀 による歴史書『大日本史』の編纂事業です。この長期的な国家的プロジェクトは、単なる歴史書の編纂にとどまらず、日本人の歴史観や国家観に大きな影響を与えました。

『大日本史』の思想は全国の藩校や寺子屋に広がり、吉田松陰や西郷隆盛など、多くの維新志士にも影響を与えたとされています。

また、この編纂事業を通じて形成された水戸学は、儒学を基盤に国学や神道を融合し、尊王思想を軸とする独自の学問体系として発展しました。

吉田松陰東北遊日記

人物を通して受け継がれたリーダーシップの系譜

水戸学と弘道館で育った人物の代表例が、江戸幕府最後の将軍徳川慶喜です。

慶喜は、大政奉還や江戸城無血開城を通じて、大規模な内戦を回避し、社会変革を成し遂げました。その判断と行動は、近代日本におけるリーダーシップの一つの到達点とも評価されています。

さらに、慶喜に仕えた 渋沢栄一 は、水戸学の影響を受けながら「論語と算盤」の思想を確立し、日本の近代経済を支えました。

加えて、松下幸之助 を支援した人物にも水戸藩ゆかりの人物がいたとされ、水戸学の精神が世代や分野を越えて受け継がれてきたことがうかがえます。

江戸幕府最後の将軍徳川慶喜

現代の人材育成につながる学びとして

水戸学と弘道館の歴史を振り返ることで、教育とは単なる知識伝達ではなく、人格形成と社会への貢献を両立させる営みであることを、改めて考えさせられました。

当協会が大切にしている「原則中心のリーダーシップ」や「人格主義」の考え方も、こうした日本の教育思想と深く通じています。

歴史に学びながら、現代における人材育成と組織づくりに、これらの叡智をどう活かしていくのか。水戸での学びは、その問いを深める貴重な機会となりました。

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